第二ボタンの話

小話

今日はあまずっぱい高校時代に予期せず起きた、私の恥ずかしいお話です。

プロローグ

その春、地元の公立中学校を卒業して4月からは地元の駅から2駅程の所にある男子高校に入学した。男子ばかりのせいなのか、みな変に格好つけることもなく早い段階で高校生活に慣れ浸しんでいた。

夏を迎える頃には周りでは早くも昔で言う所の【合コン】なるものが各グループで始まりだした。
元来、人と話すことが好きな私はこの青春時代のベント?を密かに楽しみにしていたのだ。
そんな私にもやっとこのイベントのお声がかかり高校時代は結果的に通算何度参加したかわからない。

そんな初期の合コンがきっかけでお近づきになった女子高生二人が揃って私の家に遊びにやって来た時に起きたお話である。

ワクワクの放課後

その日の数日前から自分の部屋を誰が来ても恥ずかしくない状態に片付けを開始して、前日には観葉植物(ゴムの木)なんかも買ったりした。
そして用意周到で迎えた当日の放課後、その女子高生二人を私の部屋に招き入れてワイワイと雑談が始まった。お互いの部活動やら友達関係の話やら。

その最中に
『すけぞう君、中学時代って学ランだった?今も持ってる?着てみてくれない?』
などと言われ、この子達にモテたいと内心調子に乗っていた私は学ランをクローゼットから出そうとしたのだが、その時にいつも着ていた学ランの隣に一度も着たことのない3才年上の従兄のH君にもらった短ラン(いわゆる不良学生の着る丈の短い学生服)があるのを見つけた。

この時、瞬時に私は思った。
(こっちの短ランを普段着ていた事にして、こちらを着て見せた方がモテるのではないか・・・)

今思うと全くこの選択はダサいとしか言いようがないのだが、当時ビーバップハイスクール全盛期で加藤ヒロシに憧れていた思春期バリバリの少年にそういった羞恥心は無かったのだ・・・。

私『あーあった!これこれ!』
と、その一度も学校に着たことの無い短ランをクローゼットから取り出し、クルッと袖を腕に通し2人に羽織って見せた。

その際に短ラン内側にある龍の刺繍などをチラッと見せることももちろん計算ずくだ。

するとその一人の女の子が
『うわーダッサ! と言うかあれ?第二ボタンが付いてない!すけぞう君モテる~!!』
と私に笑いかけ隣の子と一緒に私をからかいはじめた。

(ん?そうなの?第二ボタン付いて無かったの?)
一度も着たことの無い短ランのボタンの有無なんて知らないし、イケイケだった従兄のH君からもらったものだし。
内心H君モテてたんだなぁーと思いつつ、今ここでモテたい思春期の私が取った言動がさらなる過ちだったのだ。

転落

『まあねー!俺でも好きになってくれる人はいてねー。卒業式の時にあげたよ。』
などと、とっさに私は大ボラを吹いていた。
中学生時代に色恋沙汰など何もなかったくせに・・・。

『すごーい!その子どんな子なの!?卒アル見たい!!』
いやいや~!もういいじゃん!昔のことだよ。
などと三人じゃれあっていたその時だった。

カチャッ 鈍く軽い音がした。

音の方向を見ると制服の金色のボタンがフローリングの板の上を転がっている・・・。

(え? 今、短ランのボタンが外れたのか?)

三人が同時に私の短ランのボタンを下から視線を上げて確認してゆく。
すると無情にも制服に付いていないのは第二ボタンだけだった。それ以外全てきれいに付いている。
何と第二ボタンは元々外れて短ランの内側に引っかかった状態でクローゼットにしまわれてあったのだ。
それがじゃれ合った際に制服の内側から落下したのだ。龍の絵柄の裏ボタンと一緒に・・・。

ヤバイ。どうする。何か行動をとらなければ・・・。

『うっうっちょ~~~~~ん!』

絞り出した挙句、私の頭から選び出された言葉はこれだった。
両手指先をつむじにつけて大きなハートマークを作るポーズまでしてしまっている。

シーーーーーーーーーーーー

(ダサい。消えたい。このまま消えてなくなりたい。)

この時の女の子達の私を見る冷ややかな視線と表情は色あせることなく私の脳裏に刻まれている。

エピローグ

もう顔から火が吹くというのは正にこの事で全身の血液が沸騰するほどに心の中は動転していた。
恥ずかしいという山の頂に立ち、どこからどう見ても情けない私は、残酷にも自分の家にいるだけに帰ることもできないのだ。
そんな哀れな私の心中を察知されてしまい、静寂の中女の子達は私の家に居続ける事無く帰って行った。


そう。元々私に悪気はなかったのだ・・・。

あの時に隣にあった短ランのせいで。たまたま外れていたボタンのせいで。
私は調子に乗せられてしまったのだ。恥ずかし山に登らされてしまったのだ。

誰もいなくなった部屋でボタンを痛いほどに握りしめ独り涙をこぼした。

もちろんこの二人とはそれ以来会ってはいない。

高校一年生の初夏の話 
おわり

30年以上も前の話だけど。今でも思い出しては発狂したくなる。トラウマだね(笑)

若気の至りってやつですね~!正に青春時代の淡い思い出じゃあ~りませんか(笑)

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